自治体の文化・スポーツ行政の課題【桜美林大学客員教授 二之湯武史】
2020/11/03 - コラム
スポーツ産業のポテンシャル
自治体の行政分野の中で、色んな意味でポテンシャルが高いのに十分に活かせていないのがスポーツではないだろうか。
現場の実態はいまだ昭和のまま
2015年のIOC総会で2020年五輪開催都市が東京に決定して以来、スポーツ界には大きな追い風が吹いている。『体育からスポーツへ』を合言葉に、国にはスポーツ庁が発足、スポーツビジネスの振興が重要政策となり、地方創生の助政策である未来投資促進法においても観光や教育と並んでスポーツが位置付けられている。また本格的な高齢化社会の到来を踏まえ、健康意識の高まりも見られる。
行政がスポーツを振興する意義として、市民目線では潤いのある豊かな市民生活の実現、市民の健康づくり推進、年代を超えたコミュニティーの強化などが、行政目線でも街づくりの中核の育成、施設使用料の徴収や医療費の削減による財政負担の軽減、といったことがあげられる。
こうした時代の追い風や意義があるにもかかわらず、現場の実態としては昭和のまま、赤字体質、税金依存、前例踏襲主義に陥っており、スポーツのポテンシャルを顕在化出来ていない。その要因をいくつか指摘したい。
なぜ行政はスポーツを活かせないのか?
まずはリーダー。つまり自治体の長のスポーツに対する認識や理解に乏しいケースがまだまだ多い。
通常、スポーツ政策は教育委員会が担当している場合が多いが、非常に保守的で最新の情報や知見に触れていないケースが圧倒的だ。そうした保守的な現場を改革するほどの政治的エネルギーをスポーツ政策にかけるだけの理念を持ち可能性を感じる首長がいないのである。
またスポーツ施設を管理しているのは多くが行政、もしくは行政に準ずる団体であり、前例の踏襲以外の経営マインドに欠けている場合が多い。
ちなみに2002年サッカーW杯の際に整備された12スタジアムは全て赤字である。看板などの広告収入、館内での飲食、物販業者の活用など少しの努力で改善できるものから、施設の整備・改修といった数十億円の事業規模のものまで、首長や議会が改革を主導しなければならない。昨年のスポーツ施設整備に使われた税金は約2000億円。スポーツの価値に精通した議員が求められる。