PFS、SIBの導入によるオープンなまちづくり(1)【元京都市会議員 村山祥栄】

PFS、SIBの導入によるオープンなまちづくり(1)【元京都市会議員 村山祥栄】
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村山祥栄

大正大学客員教授、元京都市会議員
1978年生まれ。大学時代から衆議院議員秘書として政治に関わり、リクルート勤務後、京都市会議員を5期務める。

村山祥栄

いま注目の「PFS」とは?

 民間委託というのが行政改革の大きな柱として導入され長い年月が経つが、近年、この民間委託にも大きな進化が見られるようになった。

 そのひとつが、成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)なのだ。

 PFSとは、地方公共団体等が、民間事業者に委託等して実施させる事業のうち、「行政課題」に対応した「成果指標」が設定され、委託等した際に支払う額等が、当該成果指標の改善状況に連動する事業をいう。PFSは、民間のノウハウ等が積極的な活用や柔軟できめ細やかなサービスが提供されることで、より高い成果(アウトカム)が創出でき、個々の事業の費用対効果が高まる。事業とその成果との結び付きを測定することで、EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の推進が図られるわけだ。

「PFS」をめぐる国や自治体の動向

 こうした成果連動型民間委託契約方式の推進に関して、国は極めて積極的で、内閣府では成果連動型事業推進室を設置し、「経済財政運営と改革の基本方針2019」や「成長戦略実行計画」において、政府としてその普及促進に取り組む方針を示しており、令和4年度末までに「重点3分野でのPFS事業を実施した地方公共団体等の数を100団体以上」を目標に掲げ意気込む。

 例えば、改革派市長として全国的に名を馳せる松尾たかし市長率いる神奈川県鎌倉市では、庁舎管理といった経費削減をPFSで実施している。本庁舎の維持管理の適正化及びコスト削減は全ての自治体共通の課題だが、鎌倉市ではこれらをを市場環境(エネルギー 市場や技術革新動向等)や社会情勢の変化(都市ガスの小売全面自由化等)を的確に捉え施策の立案できる受託者を募集し、市の調達活動を最適化することに着手した。本庁舎の維持管理業務等について、受託者が、現状分析、 コスト削減等の施策立案を行う。委託額は完全成果報酬で、サービス提供前と提供後の各業務に係る経費の差額×90%(事業期間2年)で請け負う。行政は何も手を煩わせることもなく、最新の民間によるコストカット策を享受することが出来るわけだ。

 こうして説明すると万能のように聞こえるが、もちろん全ての事業に適合するわけではなく、下記の様なケースでPFSは高い成果を発揮する。

 ①民間事業者に新しい技術やノウハウの蓄積等があり、行政が直接実施するよりも事業
 の効果的・効率的な実施が期待できる場合
 ②成果連動により民間事業者の意欲を向上、事業成果の大きな改善が期待できる場合
 ③状況の変化に応じて、行政では難しい柔軟な変更が必要・有効である場合

こうしたケースにあてはまる事業は積極的に検討する価値がある。

さらに注目を浴びる「SBI」とは?

 PFSによる事業(PFS事業)のうち、民間事業者が資金提供者から資金を調達し、地方公共団体等から受けた支払に応じて返済等を行うものをソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)と呼び、こちらのほうがどちらかというと有名になりつつある。

 SIBは民間の活力を社会的課題の解決に活用するため、民間資金を呼び込み成果報酬型の委託事業を実施する新たな社会的インパクト投資を指し、海外でも積極的導入が進んでいる。

「SIB」導入による行政のオープン化と課題

 初期投資を民間資金で賄い、成果報酬型の事業を実施するSIBは、複数年度に渡る事業として設計し、初期投資に大きな費用を要する予防的な事業に取り組む際に、特にその効果を期待することができる。また、SIBの実施に際しては、行政・資金提供者・事業者の合意が取れる成果指標とその評価方法を設定する必要があるため、結果的に、事業の成果に関して関係者に対する説明責任を果たすことが可能となる。

 つまり、これまで曖昧だった結果が数値され、見える化が実現する。

 ただ、SIBには、中立的に事業成果を評価する第三者評価機関や、行政・資金提供者・サービス提供者等の調整・案件形成等を担う中間支援組織などが必要で、現実には、評価や組成・管理にも相応のコストがかかる為、事業の規模や性質に応じた適切な推進体制を構築しない限りそう簡単にGOサインを出せないのも事実だ。
 
 その為、システムとして非常に良質だと思えるこの制度だが、世界におけるSIBの案件数は22か国130件、424百万ドル(2019年2月現在)と思うように伸びていない。
 
 ただ、就労支援、糖尿病予防、心臓病予防等など、予防的介入が効果的な分野におけるSIB活用の可能性がきらりと光る。

 次号は具体的にSIBの導入事例を紹介していきたい。