PFS、SIBの導入によるオープンなまちづくり(2)【元京都市会議員 村山祥栄】

PFS、SIBの導入によるオープンなまちづくり(2)【元京都市会議員 村山祥栄】
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村山祥栄

大正大学客員教授、元京都市会議員
1978年生まれ。大学時代から衆議院議員秘書として政治に関わり、リクルート勤務後、京都市会議員を5期務める。

村山祥栄

ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の事例紹介

 前号に引き続き、今回は、注目が集まるSIBの実施事例をいくつか紹介し、SIBのイメージを具体的にお持ち頂きたいと思う。

事例1●東京都八王子市 がん検診受診率向上に大きく寄与

 八王子市では大腸がん検診受診率向上にむけ、 前年度大腸がん検診未受診者(約7万人)のうち、サービス提供者が AIを活用し、受診確率の高い 1.2 万人を抽出。各人のリスク要因を個別に伝えるオーダーメイド勧奨通知を郵送。 また、精密検査受診率向上に向け、八王子市の大腸がん検診を受診し、精密検査が必要と判定された人全て(約 3,500 名)を対象に、オーダーメイド勧奨通知を郵送するという二本立ての事業を実施。

 大腸がん検診受診率については、受診率 15%以上を達成した場合に、達成度に応じて段階的に支払う(上限 19%)という契約を、また精密検査受診率については受診率 79%以上を達成した場合に、達成値に応じて段階的に支払う(上限 87%)という契約を結んだが、大腸がん検診受診率は26.8%を達成し、事業者へ満額支給。精密検査受診率は82.1%を達成、支払基準に基づいて、2,960 千円を支払った。

 民間のノウハウを成果という形で享受し、目標は達成、結果的に予防医療が進み最終的には医療費削減にもつながると期待されている。

事例2●神奈川県鎌倉市 生活保護者の医療費削減業務に着手

 (1)で前述の松尾鎌倉市長はSIBにも積極的だ。

 鎌倉市では生活保護被保護者の医療費が年間約1億円にのぼる。こうした義務的経費の削減は非常に難しいと言われている分野だが、対象者の生活の質の向上と医療費の適正化をより一層進めるためにSIBを導入している。

 受託事業者は、対象者のうち、レセプトデータを分析し指定難病対象者、ジェネリック医薬品切替対象者、受診行動適正化対象者、その他指導が必要と思われる人を抽出し、その結果をケースワーカーに報告、また助言の提供等の支援を行うという事業を委託している。

 最低支払分を5,312 千円に設定し、医療費削減効果に応じ成果連動支払分を1,770 千円(上限)に設定するという二段階方式を採用しており、現在業務遂行中だ。

事例3●岡山県岡山市 地方創生推進交付金の活用で、ヘルスケア分野で取組み

 岡山市では、SIBを活用した健康ポイント事業を実施している。

 受託事業者は35歳以上の市民及び在勤者 (15,000人の参加目標)に対し、健康ポイントプログラム(健康施設の利用など)への参加の募集を行う。利用者に健康施設の利用や健康的な食生活をすることで、 ポイントを付与、具体的に健康に向けた取り組みを数値化する。参加者が貯めたポイント数の順位に応じて、受託事業者は個人に商品券などを送る。

 また、参加者が健康関連サービスの利用・購入を行った企業には福利厚生費などを支給するという事業計画になっている。契約期間は5年で、各年度成果指標(一年目・参加者人数、二年目・生活習慣を改善しようと思っている参加者割合など)に応じ、最低支払額(固定)275,388 千円とは別に、各年度2500万円の成果報酬を設定。(事業終了令和4年)

 これにより医療費削減試算額374,400 千円を見込んでおり、また二分の一が地方創生交付金を活用している。

事例4●福岡県大牟田市 要支援・要介護度の進行抑制

 大牟田市では、介護保険財政を維持する為に、通所介護・通所リハ施設利用者の要支援・要介護度の維持・進行抑制を目指す事業を策定し、受託事業者を選定。

 受託事業者は全施設での利用者の要支援・要介護度の変化を調査・分析をした上で、全事業所を集めて研修、結果をフィードバックし、個別に改善方策を指導、学習療法プログラムを提供する。 要支援・要介護度を維持した事業所の取組みを市内で広くPRし、事業所にとってのインセンティブを図る。事業期間4年、固定支払いなし。全て成果報酬型で、3年目までの成果指標は非公表、四年目はサービス対象者の要支援・要介護度の改善維持率が 10%以上の場合に限り成果報酬を支払う。(上限 20%)

事例5●大阪府池田市 不登校の子供の自立支援

 不登校を経験した子供たちは将来、非就業、非就学状態に陥る確率が高く、将来的に発生する社会的コストも課題とされており、不登校や引きこもりなどの社会的孤立を防ぎ、将来の自立を支援することは行政のセーフティーネットの予防的側面として近年注目が集まる分野の一つだが、こうした事業にもSIBが積極的に活用されている。

 大阪府池田市では、受託事業者が運営するフリースクールに在籍する小・中学生を対象に、フリースクールの出席及び教育相談を促すとともに、原籍校への出席日数増加を実現するという成果指標をもとに事業を展開している。固定報酬第1期400万円・第2期450万円、成果連動支払額は各期500万円(上限)とし、第1期は、スマイルファクトリー及び原籍校で支払条件を超える出席日数を達成することで成果連動支払いが発生する。

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 PFSやSIBとも、仕組み自体が新しく、紹介事例のほとんどが現在進行中の事業だが、事業の枠組みは幅広く、知恵次第では色々な取り組みができる。

 特に、行政にとって不得手になりがちな先進的な民間の取り組みを低リスクで導入できる点は非常に大きい。また、これまでタブーとされてきた福祉分野への成果報酬という概念は今後の財政課題の解決に大変大きな一石を投じる取り組みであり、今後の動向に注目が集まる。